2021年01月17日
第39回「袴田事件がわかる会」続報 ゲスト亀石倫子弁護士
トップバッターは、ひで子姉さん。(写真撮りそこねたので、亀石さんとのツーショットで)
「最高裁から封筒届いたときはね、あー、ついに来たか、と思いましてね。開けて、主文というとこだけ見ました・・・ま~、うれしかったですね。!とにかく、うれしかった!ちょうど、支援者の清水さんが来ていてね。あちこち連絡してもらったり。私は弁護士さん、団長の西嶋先生や小川先生などに電話しても、お留守。もー、だれも弁護士さんはつながらない。そうこうするうちにマスコミの人たちが押し寄せてきて、話してたら、今度は清水の山崎さんに記者会見するからしゃべるのヤメ、とか言われるでしょ。それー、静岡へ会見に行かなきゃ。で、会見して暗くなって帰ってきたら、家の階段を、いつの間にかゾロゾロ記者のみなさんが付いてきて、もー今日はいい特別だ、と入ってもらってね・・・イワオは、おかしいには、おかしいけど、どーってことありません。元気にしておりますので、今後ともよろしくお願い申します」 最高裁決定が届いた日のてんやわんやを、笑顔で語りました。
亀石倫子弁護士、「私も巖さんの応援団の一人として、皆さんと同じように巖さんの一日も早い無罪を願っています。みなさん、いつも支援してくださって、感謝です」とスタート。
自己紹介。大学の英文科を卒業後、大手企業に就職するも、大きな組織に所属して働くのが自分の性にあわなかったとか。
「もうね、空気が読めないっていうか・・自分は会社員には向いてないと思った」。会社は辞め、結婚。「自分らしく働くには・・と考えていたところ、本屋で司法試験の本を見てこれだ!と思った。法学部出身でもないのにね」
・・ロースクールに入って30才。34才で司法試験合格。
刑事事件の弁護人になるきっかけは、ロースクール時の先生の話だったとか。
「その先生が和歌山カレー事件の林眞須美被告の弁護人だったんです。私は事件の時、一般人でテレビみて、この人が犯人と思っていた。先生は、なんでこんな人の弁護ができるのか、とすら思った・・」
そこで初めて弁護人から見た「真実」を聞かされた亀石さん。この事件は直接証拠が何もなく、曖昧な目撃証言しかない、土地柄で家にシロアリ駆除薬品があるのはめずらしくなく、その薬品中にはヒ素も、などと知る。さらに、「その先生が、被告を眞須美ちゃんと呼び、『眞須美ちゃんはね、お金になることだったら何でもするんだけど、カレーに毒を入れて無差別に人が死んだところで、お金が一円も入ってくるわけじゃない。動機がないんだよね』とか、そういう話を聞いているうちに、一体私は、何を根拠に『この人、絶対犯人でしょ』と思ってたんだろうと、今まで生きてきて一番衝撃を受けたんです。頭を金槌で殴られるような衝撃。今までの私の思い込み、偏見、先入観というのが何だったんだろうと思ったんですね」
「自分の頭で考えているようでいて、実は全然そうじゃなかった。メディアが垂れ流す情報を、ただ鵜呑みにしていた・・わかったような気になってただけだったという事に、初めて気づいた」
「この衝撃が、刑事弁護という仕事に興味を持つきっかけで、絶対私は、試験に受かって弁護士になれたら刑事弁護やろうと思いながら勉強しました。これが刑事弁護人として仕事をしていく原点」
「この時から本当の人生が始まったように思う」
<弁護士になってから、最高裁三連勝の偉業>
◆クラブ風営法違反事件―最高裁で無罪確定
クラブは、女性がお酌してくれるところではなく、ミラーボールと大音量音楽の中でダンスをするほう。風営法は昭和23年戦後すぐあと、混乱期にできた法律で現代にそぐわない。自分は弁護士3年目、6年目以下の若手で弁護団を結成。
「この事件をやっている時に、学んだのが、事件に注目を集める工夫をしなきゃいけない、社会の人にこういう問題が起こっているという事を知ってもらって、おかしいじゃないかという声を一緒にあげてもらわないといけないということ。ドキュメンタリー映画、「SAVE THE CLUB NOON」というのを、ある映画監督が作ったんですけど、その資金をクラウドファンディングで集めた。20014年のことなので、今から6年も7年も前、ものすごく新しい事だった。
・・・あとは、クラブの人たちのアイディアでポストカード。クラブのイベントをやるときに作る宣伝のポストカードと同じように、ムーン裁判控訴審第1回裁判、公判の日程が書いてある。他のクラブ、カフェ、美容室などに置かせてもらって、まるでイベントみたいに裁判に来てもらう工夫をしていた。
クラブの人たちのアイディアで、実際の弁護人の冒頭陳述を別撮りしてYouTubeにアップもした。(2014年4月19日公開)これは、毎回傍聴席が満席になることにつながった。この裁判の行方を多くの人が注目している事が裁判官に伝わる事で、いい加減な判断はできないと思わせる効果があったと思う」
結果として、1審で無罪。検察は、もちろん控訴。大阪高裁でも無罪が維持。検察は最高裁へ上告するも棄却されて無罪が確定。これがきっかけで、風営法が改正されることになった。
「この事件の経験により、刑事弁護の仕事が、こんなふうに社会を巻き込む、世論を味方につけて社会を変えるという力があると、初めて思った。この経験が今に生きてる」
◆令状なきGPS追跡捜査事件―最高裁大法廷で弁論、無罪確定
警察がサービス提供会社からGPS端末をレンタルして、捜査対象者の車やバイクに無断でそれをとりつける。それを携帯電話などで簡単に位置を検索することができる。今、どこにいるかを簡単に把握することができる「監視捜査」をやっていたことが発覚。人権侵害するような捜査は、令状を必要とする。
「私がこの事件を受け、同期の弁護士6人で弁護団を作って取り組んでいくことにしました。プライバシー侵害という事を、どうやって裁判官にわかってもらうか。どれくらいGPSで居場所がはっきりわかるものなのか、実際に自分たちで2台の車を使い実験してみました。・・住所や地図が出る。すごく正確な位置がとれる。自分たちが体験してわかった事を、裁判官にも経験してもらうような感じで、すべて写真を添付しました」。
後日談で、裁判官が分かりやすかったとのことが耳に入ったとか。
結果、令状なしのGPS捜査は違法、プライバシー侵害になるという判断が出た。
ところが、福岡、大阪、名古屋、広島、福井、東京など全国各地の地方裁判所で令状なきGPS捜査は違法という訴えが起こされたが、判断が真二つに分かれたとのこと。尾行や張り込みには礼状がいらない、GPS捜査も尾行張り込みの一種にすぎないという判断も。
真二つに分かれたのをこのままにしておくことはできないと最高裁も考えたか。
「私たちの事件で、最高裁の大法廷(最高裁裁判官15人全員が並ぶ)で判断することになった。こんな大ごとになるとは思っておらず、ビックリ。・・・最高裁に行くことが初めてで、場所をネット検索したくらい」
「どんなプレゼンテーションをするのがいいか考えた。難しそうな書面をだすとか、難しそうなことを言うのは身の丈に合っていないと思った。弁護士になって6~7年目で弁護士としてはぺーペー。・・・私たちがGPS捜査の何が問題と思ってやってきたかを聞いてもらおうと思って、身の丈にあった自分たちの言葉で、書面を読み上げるのではなくて、きちんと言う事を頭に入れて、一人一人の裁判官の目を見て訴えた。
(左最前列、右端が亀石弁護士)
<権力の暴走を許し、権力が国民を監視する社会を選ぶのか、それとも、個人が強くあるためのプライバシーを大切にする社会を選ぶのか、この裁判がひとつの分岐点になるでしょう。私たちの子孫が、この裁判の事を知った時に、私たちを憎むのではなく感謝してくれるような判断であることを願っています>
(いやー、素晴らしい弁論!ハリウッド映画の法廷クライマックスを見るようです!)
これが弁論の一番最後に言った言葉なんです。・・・裁判官の方々は、顔をあげて、耳を傾けて聞いてくれました。・・最高裁というのはどういうところなのか、遠い所すぎて謎で、私たちは弁護士だけど、みなさんと同じで、もう全く分からない。だけど、その裁判官たちに少しでも耳を傾けてもらう、心に届くような言葉で話すという事を愚直に実践しました。
その結果、令状取らなければGPS捜査はできないという判断を、最高裁はしてくれ、さらにもう一歩踏み込んで、そのGPS捜査をするためには、今法律で定められている礼状ではダメで、新しく法律を作って立法的な措置をしないといけないというところまで踏み込んだ判断をした。これは画期的であったと同時に、警察の捜査の現場には打撃が大きいような判断でした。
この判決が出た後、全国の警察が、今取りつけているGPSを外しにいったという話を聞きました」
*詳しくは『刑事弁護人』亀石倫子著に。大法廷での弁論も掲載されています。
大法廷で弁論の機会がある弁護士など、そうはいません。
◆タトゥー彫り師裁判―大阪高裁で逆転無罪、最高裁で無罪確定
医師免許を持っていないと摘発された事件。タトゥーは医療か芸術か。
刺青への偏見があり、「自分も怖いイメージだった。それは感情だから、法律と分けて考えなければならない」
1審の有罪判決が結論ありきで怒りがわいたという亀石弁護士。
「日本で初めて訴訟費用を募るクラウドファンディング始めたんですが、目標300万を超える金額が集まった。お金が足りなくて立証できなかった外国、アメリカ、フランス、ドイツなど医師免許不要国との比較、立証ができた」
30年、大阪高裁で逆転無罪に。「職業彫り師と書いてあったことが、彫り師の職業を守る裁判だったから、うれしかった。学者や皮膚科の医師など、色々な分野の力を集めて裁判を闘う事ができるんだと思いました」
3つの事件全て、若手弁護士で闘い勝った亀石弁護士、一昨年10月大崎事件40年目のイベントにゲストで招かれた時、初めてひで子姉さんと会った。
(左から、亀石弁護士、大崎事件弁護団事務局長・鴨志田祐美弁護士、湖東病院事件・再審無罪の西山美香さん、ひで子姉さん、東住吉事件・再審無罪の青木恵子さん、甲南学院大・笹倉香奈教授)
再審事件との初めての出合いで、なんという不正義!と衝撃を受けたとのこと。そして、大崎事件弁護団に参加することになった。
「私が入って何ができるかと思ったが、クラウドファンディングを提案。まずは、鹿児島の田舎の事件だから知名度が低い。こんな司法の不正義があり、許されないことを広く知って頂きたいとの思いで、1240万円集めることができた。金額以上に、初めてこんなひどい事があると知ったと、一緒に怒ってくれる人たちがたくさん現れ、私たちも励まされたし、実際にクラウドファンディングで集まったお金で事件の再現実験、高額の費用がかかる3DCG(3次元コンピュータグラフィックス)でできました」
「この後、袴田事件のクラウドファンディングが始まり、1800万集まり、さすが袴田事件ですが、袴田事件も終わったと思ってらっしゃる人もたくさんいる。釈放された時点で、もう巖さんは無罪になったと思われた方がたくさんいたので、クラファンが始まったことで、えっ、まだ終わってなかったの?!って、改めて知ったという方もたくさんいたということが、私のまわりにもあった。こういうことを、社会に対して発信していくという事がすごく大事だなと思ったし、その世論の関心とか共感とか、司法に対する批判が今回の最高裁の決定に後押しに・・・、今、勢いがあり、いい流れができていると思います」
最後に、コロナで持続化給付金から性風俗事業者が対象外になっている問題に取り組んで・・。
「性風俗事業に対する偏見差別、・・日本人の道徳観、価値観として嫌だ、嫌いだというのがあると思うし、あんなの仕事じゃないという人もいるし、色んな考えがあると思うんだけど、国がそれを理由に除外して給付金を出さないということが、憲法14条の平等原則に反するのではないか、という裁判をしています。これも、クラウドファンディングをして、すごくたくさんの支援を頂いた」
「私が関わっている事件に共通しているのは、社会からの偏見が強い、それで社会から排除されるような職業や人の側に立って、一緒に闘う。社会に対して発信するということです。去年の10月に初めて袴田さんのお宅にお邪魔して、巖さんとひで子さんと3人でお昼ご飯を食べたりしながら、ひで子さんにお話を聞いて、巖さんの事件当時、ボクサーという職業に対する偏見があったこと。巖さんが、そういう偏見の下で、「アイツがやったに違いない」と思われたし、当時、メディアが書き立て、テレビで言われてたら、私も漫然とそれを鵜吞みにしていたかもしれない。自分の中にも、偏見があるんじゃないかという事をいつもいつも思って、こういう仕事をしていてその偏見に気づいた時に、どうやったら社会の皆さんに気づいてもらえるだろうかと考え、偏見というのは、まず知らないという事から生まれると思うので、知ってもらうという、そういうための発信をしていかなきゃいけないなと思っています」
「誰かの権利や自由が脅かされているのを、他のみんなが見過ごす社会になってしまったら、いつか違うかたちで自分自身に返ってくる。自分が安心して暮らせる社会であるために、他者への権利侵害を他人事にしてはいけない」(『刑事弁護人』より)
亀石倫子弁護士の他者への眼差しは、思いやりに満ちています・・。
たくさんご紹介したくて長くなりました。
読んで頂きありがとうございます!
「最高裁から封筒届いたときはね、あー、ついに来たか、と思いましてね。開けて、主文というとこだけ見ました・・・ま~、うれしかったですね。!とにかく、うれしかった!ちょうど、支援者の清水さんが来ていてね。あちこち連絡してもらったり。私は弁護士さん、団長の西嶋先生や小川先生などに電話しても、お留守。もー、だれも弁護士さんはつながらない。そうこうするうちにマスコミの人たちが押し寄せてきて、話してたら、今度は清水の山崎さんに記者会見するからしゃべるのヤメ、とか言われるでしょ。それー、静岡へ会見に行かなきゃ。で、会見して暗くなって帰ってきたら、家の階段を、いつの間にかゾロゾロ記者のみなさんが付いてきて、もー今日はいい特別だ、と入ってもらってね・・・イワオは、おかしいには、おかしいけど、どーってことありません。元気にしておりますので、今後ともよろしくお願い申します」 最高裁決定が届いた日のてんやわんやを、笑顔で語りました。
亀石倫子弁護士、「私も巖さんの応援団の一人として、皆さんと同じように巖さんの一日も早い無罪を願っています。みなさん、いつも支援してくださって、感謝です」とスタート。
自己紹介。大学の英文科を卒業後、大手企業に就職するも、大きな組織に所属して働くのが自分の性にあわなかったとか。
「もうね、空気が読めないっていうか・・自分は会社員には向いてないと思った」。会社は辞め、結婚。「自分らしく働くには・・と考えていたところ、本屋で司法試験の本を見てこれだ!と思った。法学部出身でもないのにね」
・・ロースクールに入って30才。34才で司法試験合格。
刑事事件の弁護人になるきっかけは、ロースクール時の先生の話だったとか。
「その先生が和歌山カレー事件の林眞須美被告の弁護人だったんです。私は事件の時、一般人でテレビみて、この人が犯人と思っていた。先生は、なんでこんな人の弁護ができるのか、とすら思った・・」
そこで初めて弁護人から見た「真実」を聞かされた亀石さん。この事件は直接証拠が何もなく、曖昧な目撃証言しかない、土地柄で家にシロアリ駆除薬品があるのはめずらしくなく、その薬品中にはヒ素も、などと知る。さらに、「その先生が、被告を眞須美ちゃんと呼び、『眞須美ちゃんはね、お金になることだったら何でもするんだけど、カレーに毒を入れて無差別に人が死んだところで、お金が一円も入ってくるわけじゃない。動機がないんだよね』とか、そういう話を聞いているうちに、一体私は、何を根拠に『この人、絶対犯人でしょ』と思ってたんだろうと、今まで生きてきて一番衝撃を受けたんです。頭を金槌で殴られるような衝撃。今までの私の思い込み、偏見、先入観というのが何だったんだろうと思ったんですね」
「自分の頭で考えているようでいて、実は全然そうじゃなかった。メディアが垂れ流す情報を、ただ鵜呑みにしていた・・わかったような気になってただけだったという事に、初めて気づいた」
「この衝撃が、刑事弁護という仕事に興味を持つきっかけで、絶対私は、試験に受かって弁護士になれたら刑事弁護やろうと思いながら勉強しました。これが刑事弁護人として仕事をしていく原点」
「この時から本当の人生が始まったように思う」
<弁護士になってから、最高裁三連勝の偉業>
◆クラブ風営法違反事件―最高裁で無罪確定
クラブは、女性がお酌してくれるところではなく、ミラーボールと大音量音楽の中でダンスをするほう。風営法は昭和23年戦後すぐあと、混乱期にできた法律で現代にそぐわない。自分は弁護士3年目、6年目以下の若手で弁護団を結成。
「この事件をやっている時に、学んだのが、事件に注目を集める工夫をしなきゃいけない、社会の人にこういう問題が起こっているという事を知ってもらって、おかしいじゃないかという声を一緒にあげてもらわないといけないということ。ドキュメンタリー映画、「SAVE THE CLUB NOON」というのを、ある映画監督が作ったんですけど、その資金をクラウドファンディングで集めた。20014年のことなので、今から6年も7年も前、ものすごく新しい事だった。
・・・あとは、クラブの人たちのアイディアでポストカード。クラブのイベントをやるときに作る宣伝のポストカードと同じように、ムーン裁判控訴審第1回裁判、公判の日程が書いてある。他のクラブ、カフェ、美容室などに置かせてもらって、まるでイベントみたいに裁判に来てもらう工夫をしていた。
クラブの人たちのアイディアで、実際の弁護人の冒頭陳述を別撮りしてYouTubeにアップもした。(2014年4月19日公開)これは、毎回傍聴席が満席になることにつながった。この裁判の行方を多くの人が注目している事が裁判官に伝わる事で、いい加減な判断はできないと思わせる効果があったと思う」
結果として、1審で無罪。検察は、もちろん控訴。大阪高裁でも無罪が維持。検察は最高裁へ上告するも棄却されて無罪が確定。これがきっかけで、風営法が改正されることになった。
「この事件の経験により、刑事弁護の仕事が、こんなふうに社会を巻き込む、世論を味方につけて社会を変えるという力があると、初めて思った。この経験が今に生きてる」
◆令状なきGPS追跡捜査事件―最高裁大法廷で弁論、無罪確定
警察がサービス提供会社からGPS端末をレンタルして、捜査対象者の車やバイクに無断でそれをとりつける。それを携帯電話などで簡単に位置を検索することができる。今、どこにいるかを簡単に把握することができる「監視捜査」をやっていたことが発覚。人権侵害するような捜査は、令状を必要とする。
「私がこの事件を受け、同期の弁護士6人で弁護団を作って取り組んでいくことにしました。プライバシー侵害という事を、どうやって裁判官にわかってもらうか。どれくらいGPSで居場所がはっきりわかるものなのか、実際に自分たちで2台の車を使い実験してみました。・・住所や地図が出る。すごく正確な位置がとれる。自分たちが体験してわかった事を、裁判官にも経験してもらうような感じで、すべて写真を添付しました」。
後日談で、裁判官が分かりやすかったとのことが耳に入ったとか。
結果、令状なしのGPS捜査は違法、プライバシー侵害になるという判断が出た。
ところが、福岡、大阪、名古屋、広島、福井、東京など全国各地の地方裁判所で令状なきGPS捜査は違法という訴えが起こされたが、判断が真二つに分かれたとのこと。尾行や張り込みには礼状がいらない、GPS捜査も尾行張り込みの一種にすぎないという判断も。
真二つに分かれたのをこのままにしておくことはできないと最高裁も考えたか。
「私たちの事件で、最高裁の大法廷(最高裁裁判官15人全員が並ぶ)で判断することになった。こんな大ごとになるとは思っておらず、ビックリ。・・・最高裁に行くことが初めてで、場所をネット検索したくらい」
「どんなプレゼンテーションをするのがいいか考えた。難しそうな書面をだすとか、難しそうなことを言うのは身の丈に合っていないと思った。弁護士になって6~7年目で弁護士としてはぺーペー。・・・私たちがGPS捜査の何が問題と思ってやってきたかを聞いてもらおうと思って、身の丈にあった自分たちの言葉で、書面を読み上げるのではなくて、きちんと言う事を頭に入れて、一人一人の裁判官の目を見て訴えた。
(左最前列、右端が亀石弁護士)
<権力の暴走を許し、権力が国民を監視する社会を選ぶのか、それとも、個人が強くあるためのプライバシーを大切にする社会を選ぶのか、この裁判がひとつの分岐点になるでしょう。私たちの子孫が、この裁判の事を知った時に、私たちを憎むのではなく感謝してくれるような判断であることを願っています>
(いやー、素晴らしい弁論!ハリウッド映画の法廷クライマックスを見るようです!)
これが弁論の一番最後に言った言葉なんです。・・・裁判官の方々は、顔をあげて、耳を傾けて聞いてくれました。・・最高裁というのはどういうところなのか、遠い所すぎて謎で、私たちは弁護士だけど、みなさんと同じで、もう全く分からない。だけど、その裁判官たちに少しでも耳を傾けてもらう、心に届くような言葉で話すという事を愚直に実践しました。
その結果、令状取らなければGPS捜査はできないという判断を、最高裁はしてくれ、さらにもう一歩踏み込んで、そのGPS捜査をするためには、今法律で定められている礼状ではダメで、新しく法律を作って立法的な措置をしないといけないというところまで踏み込んだ判断をした。これは画期的であったと同時に、警察の捜査の現場には打撃が大きいような判断でした。
この判決が出た後、全国の警察が、今取りつけているGPSを外しにいったという話を聞きました」
*詳しくは『刑事弁護人』亀石倫子著に。大法廷での弁論も掲載されています。
大法廷で弁論の機会がある弁護士など、そうはいません。
◆タトゥー彫り師裁判―大阪高裁で逆転無罪、最高裁で無罪確定
医師免許を持っていないと摘発された事件。タトゥーは医療か芸術か。
刺青への偏見があり、「自分も怖いイメージだった。それは感情だから、法律と分けて考えなければならない」
1審の有罪判決が結論ありきで怒りがわいたという亀石弁護士。
「日本で初めて訴訟費用を募るクラウドファンディング始めたんですが、目標300万を超える金額が集まった。お金が足りなくて立証できなかった外国、アメリカ、フランス、ドイツなど医師免許不要国との比較、立証ができた」
30年、大阪高裁で逆転無罪に。「職業彫り師と書いてあったことが、彫り師の職業を守る裁判だったから、うれしかった。学者や皮膚科の医師など、色々な分野の力を集めて裁判を闘う事ができるんだと思いました」
3つの事件全て、若手弁護士で闘い勝った亀石弁護士、一昨年10月大崎事件40年目のイベントにゲストで招かれた時、初めてひで子姉さんと会った。
(左から、亀石弁護士、大崎事件弁護団事務局長・鴨志田祐美弁護士、湖東病院事件・再審無罪の西山美香さん、ひで子姉さん、東住吉事件・再審無罪の青木恵子さん、甲南学院大・笹倉香奈教授)
再審事件との初めての出合いで、なんという不正義!と衝撃を受けたとのこと。そして、大崎事件弁護団に参加することになった。
「私が入って何ができるかと思ったが、クラウドファンディングを提案。まずは、鹿児島の田舎の事件だから知名度が低い。こんな司法の不正義があり、許されないことを広く知って頂きたいとの思いで、1240万円集めることができた。金額以上に、初めてこんなひどい事があると知ったと、一緒に怒ってくれる人たちがたくさん現れ、私たちも励まされたし、実際にクラウドファンディングで集まったお金で事件の再現実験、高額の費用がかかる3DCG(3次元コンピュータグラフィックス)でできました」
「この後、袴田事件のクラウドファンディングが始まり、1800万集まり、さすが袴田事件ですが、袴田事件も終わったと思ってらっしゃる人もたくさんいる。釈放された時点で、もう巖さんは無罪になったと思われた方がたくさんいたので、クラファンが始まったことで、えっ、まだ終わってなかったの?!って、改めて知ったという方もたくさんいたということが、私のまわりにもあった。こういうことを、社会に対して発信していくという事がすごく大事だなと思ったし、その世論の関心とか共感とか、司法に対する批判が今回の最高裁の決定に後押しに・・・、今、勢いがあり、いい流れができていると思います」
最後に、コロナで持続化給付金から性風俗事業者が対象外になっている問題に取り組んで・・。
「性風俗事業に対する偏見差別、・・日本人の道徳観、価値観として嫌だ、嫌いだというのがあると思うし、あんなの仕事じゃないという人もいるし、色んな考えがあると思うんだけど、国がそれを理由に除外して給付金を出さないということが、憲法14条の平等原則に反するのではないか、という裁判をしています。これも、クラウドファンディングをして、すごくたくさんの支援を頂いた」
「私が関わっている事件に共通しているのは、社会からの偏見が強い、それで社会から排除されるような職業や人の側に立って、一緒に闘う。社会に対して発信するということです。去年の10月に初めて袴田さんのお宅にお邪魔して、巖さんとひで子さんと3人でお昼ご飯を食べたりしながら、ひで子さんにお話を聞いて、巖さんの事件当時、ボクサーという職業に対する偏見があったこと。巖さんが、そういう偏見の下で、「アイツがやったに違いない」と思われたし、当時、メディアが書き立て、テレビで言われてたら、私も漫然とそれを鵜吞みにしていたかもしれない。自分の中にも、偏見があるんじゃないかという事をいつもいつも思って、こういう仕事をしていてその偏見に気づいた時に、どうやったら社会の皆さんに気づいてもらえるだろうかと考え、偏見というのは、まず知らないという事から生まれると思うので、知ってもらうという、そういうための発信をしていかなきゃいけないなと思っています」
「誰かの権利や自由が脅かされているのを、他のみんなが見過ごす社会になってしまったら、いつか違うかたちで自分自身に返ってくる。自分が安心して暮らせる社会であるために、他者への権利侵害を他人事にしてはいけない」(『刑事弁護人』より)
亀石倫子弁護士の他者への眼差しは、思いやりに満ちています・・。
たくさんご紹介したくて長くなりました。
読んで頂きありがとうございます!
Posted by 袴田家物語 at 23:58│Comments(0)
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